呼吸

すべての土台

吸う・吐く・止める

命の最小単位を、感じてみましょう。

基本の呼吸

怒ったとき、痛いとき、緊張したとき。身体と気持ちには、必ず何かが起きています。心臓が速くなる、身体がこわばる、頭が真っ白になる、カッと熱くなる。

困るのは、それがそのまま行動になってしまうことです。カッとなって言い返す、痛くて身をよじる、焦って手が止まる。起きたことと、やることが、直結してしまう。

ここに、ほんの少し隙間を作ります。そうすると、腹が立ったままでも、言い返さないという選択ができるようになります。

その隙間を作るのが、この呼吸です。

なぜ、頭ではなく呼吸なのか

気持ちが高ぶっている最中に「落ち着こう」と考えても、まず効きません。考える力そのものが、そのときは働いていないからです。

だから身体のほうから手をつけます。呼吸を変えると、身体の状態が変わります。そこでようやく、自分に何が起きているかが見えてきて、どうするかを選べるようになります。

「一息入れてから考える」という言い方がありますが、順番はまさにその通りです。一息が先で、考えるのは後です。

この呼吸は、もともと武術から出てきたものです。殴られたとき、驚いたとき、強いストレスを受けたとき——その瞬間に何をするか、というところから引き出しました。

やり方

鼻から吸って、口から「フーッ」と吐く。それだけです。

強くやる必要はありません。長く、穏やかに。吸い切ろうとも、吐き切ろうともしないでください。息を追い出すのではなく、細く長く流していく感じです。

秒数も、回数も、決まりはありません。手順が少ないことには理由があります。この呼吸を使うのは、まさに動揺している最中です。そのときに数を数えたり、手順を思い出したりはできません。覚えることが少ないこと自体が、この呼吸の条件です。

何回やるか

決めません。1回で足りることもあります。慣れてくると、少ない回数で済むようになります。

数えるものではなく、自分がどうなったかで判断します。

いつやめるか

ここが、この呼吸でいちばん大事なところです。二段階あります。

まず、行動が選べるようになる

まだ腹は立っているけれど、言い返さずにいられる。まだ痛いけれど、身をよじらずにいられる。ここでやめてはいけません。

その次に、いつもの自分に戻る

普通の鼻呼吸に切り替えても苦しくない。動悸が収まっている。ふだんは考えないようなことを、考えていない。どれかが残っていたら、まだ続けてください。

いちばん分かりやすいのは、普通の鼻呼吸に戻れるかどうかです。戻ろうとして苦しければ、まだ途中です。

行動が選べるようになるのは、あくまで最低ラインです。そこで切り上げると、途中で終わることになります。

どんなときに使うか

身体や気持ちに何かが起きたときなら、いつでも構いません。痛いとき、腹が立ったとき、緊張したとき、動揺したとき。

ひとつ、誤解されやすいところがあります。怒りや痛みを消すためのものではありません。

腹が立つこと自体は、なくす必要がありません。それは生きているということです。困るのは、その怒りがそのまま行動を決めてしまうことのほうです。

隙間さえ入れば、腹が立ったまま、落ち着いて対応できます。痛みも同じで、痛いまま、慌てずにいられるようになります。

気をつけること

はじめに

これは医療行為ではありません。

治療の代わりになるものではなく、診断を行うものでもありません。現在なんらかの症状で治療を受けている方は、主治医の指示を優先してください。

また、感じ方や変化には個人差があります。同じように行っても、同じことが起きるとは限りません。

行う場所

慣れるまでは、落ち着いた場所で、座るか横になって行ってください。強く吐き続けると、まれにふらつきが出ることがあります。立っていると、そのまま転んでしまいます。

ふらついて困る場所では行わないでください。入浴中、階段や高いところ、機械や刃物を扱っているとき。ここに挙げたものだけが危ないという意味ではありません。倒れたら困る場所は、日常にいくらでもあります。

形が身についてしまえば、姿勢も場所も問いません。むしろ、日常のどこででも使えるようになることを目指す呼吸です。

やらないこと

  • 息は止めないでください。息を止めるのは別のやり方で、順番と条件があります
  • 速く強く吐き続けないでください。回数を重ねて追い込むものではありません

息を吐きすぎると、かえって具合が悪くなります。手足や口のまわりがしびれる、ふらつく、めまいがする、視野が暗くなる——こうしたものが出たら、そこで止めて、普通の呼吸に戻してください。しばらくすれば治まります。

身体に出るものを挙げているのは、その最中には冷静な判断ができないからです。頭で思い出せるとは限りませんが、しびれやふらつきなら、動揺していても気づけます。

強い反応が出たとき

呼吸に意識を向けていると、感情が動くことがあります。涙が出る、身体が震える、昔のことを思い出す。珍しいことではありません。何かがおかしくなったわけでも、やり方を間違えたわけでもありません。

そうなったら、無理に続けず、そこで一息、入れてください。落ち着くまで、そこで待ちます。収まりきらないまま次の用事に移ると、それを引きずったまま一日を過ごすことになります。

出てきたものを、その場で整理しようとしなくて大丈夫です。なぜ今これを思い出したのか、あのときのことが尾を引いているのか——そうした詮索は要りません。ここでやることは、落ち着くところまでです。その先は、また別の話になります。

同じことが何度も出てくることもあります。そのときは、ひとりで続けて片づけようとしないでください。

持病のある方へ

この呼吸は息を止めませんし、息を吐きすぎるものでもありません。そのため、多くの呼吸法に付いている制限は、基本的に当てはまりません。

ただし、以下に当てはまる方は、行う前に主治医にご相談ください。

  • 喘息、COPDなどの呼吸器疾患がある
  • パニック障害、または強い不安がある
  • 心臓や血圧に関わる病気で治療を受けている
  • 妊娠中である

呼吸に意識を向けること自体が、不安を強める場合があります。息苦しさを意識した瞬間に、かえって苦しくなる人がいます。行ってみて、落ち着くどころか苦しくなるようであれば、そこでやめてください。

ここに挙げていないことが、安全であることを意味するわけではありません。

その他の呼吸について

呼吸は、これだけではありません。落ち着かせるためのものもあれば、逆に、あえて苦しさを作って、そこで自分がどうなるかを見るものもあります。

後者は、やる順番と条件が決まっています。何が起きるのか、どこに気をつけるのかを、先にお伝えしてから行います。ひとりで試すものではありません。

公開しているのは、この基本の呼吸までです。先は、対面でお伝えしています。

先へ進まないから足りない、ということはありません。動揺したときに自分で戻ってこられる——それだけで、日常はかなり変わります。

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